ドラッグストアにて

白い綿棒か黒い綿棒か。どちらにするべきかと腕を組んでいると、もう一人隣に歳の近い女性が来て同じように困った表情をはじめた。

この人も綿棒の色で悩んでるのかな、ジッと目に留まっているのはどちらの色の綿棒かな。と気になったので、彼女の方に目を向けそこから目線の先を辿ってみると、綿棒の隣にコンドームが陳列されていることに気付かされた。

彼女にはずっと僕の姿がどのコンドームにするか人目をはばからず堂々と悩む変な人間に見えていたに違いない。

「フフッ」

笑い声は彼女からだった。

コンドームの前で男女が二人、互いが互いの目を意識してしまい目的の品に手が出せないこの硬直した状況を察し可笑しくなったらしい。

「恥ずかしい」と思ったがいや待て、僕が見ていたのは白と黒の綿棒でそこには一切恥ずべき所は無い。それよりもむしろ、彼女の方が恥ずかしい。

なぜなら、彼女はまだ僕がコンドームではなく、綿棒の色で悩んでいる事を知らないからだ。彼女は僕の事をコンドームで悩む男、いやもっとこう、同じ時同じ場所で"コンドームで悩みし同志"とまで思っているかもしれない。そこでどうだ、長い沈黙を破り一方の男が手を伸ばした先が綿棒であることを認識した時、どれ程恥ずかしい事か。コンドームだったのが自分だけだったと気付いた時の気持ちとは想像もつかない。

そんな事を考えていると当然また硬直したまま時間が経っていた。正直、綿棒選びどころでは無くなっていた僕は彼女の気持ちになって考える。

彼女はきっと悩んでいるわけでは無いのだろう。知らない男が見ている目の前で女性が一人、コンドームを手に取る所を披露するのが困難なことは容易に考えられる。

差し当たっては、コンドームの前に並んだ順番通り僕から選択を済ませなければならない。僕が立ち去らない限り彼女の手がそれに伸びることはないだろうからだ。

もう迷いはなかった。そうなってからは早い。いかに僕が優柔不断な性格を有していようとも、これ以上彼女を困らせる訳にはいかない。

そっと手を伸ばし、触れたのは黒いパッケージのコンドームだった。

ほんとは綿棒買いにきたんだけど。黒の方にすることは胸の中で決まってたんだけど。

 

一直線にレジに向かった僕がそのまま店を出る。ふと振り返ったときにレジにいた彼女の手には黒い綿棒があった。